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はじめに 1. ファローラの女 2. はじまり 3. 洗礼 4. きっかけ 5. イシドロ 6. ニホンジンダイヒョウ 7. 雨にもマケズ 8. maleta -マレタとの出会い 9. 100ペセタのちから 10. 筆をにぎれ 11. ペインターズ チェア 12. 濃縮100%ジュース 13. 幻のお札 14. 音楽万歳 15. えみこさん 16. 人を見たら… 17. 国をでたこと 18. I am me 19. まぼろしのsweet home 20. ひたむきさの裏側 21. リュックを背負った仙人 22. ペドレラ 23. 陰 24. 道はいくつもある 25. Made in Japan 26. いつも旅行鞄を持って おわりに フォロー中のブログ
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2009年 07月 09日
7年ほど前。
当時まだパソコンも持っていなかった私は、近所に出来たインターネット・カフェで、はじめて自分のメールアドレスを作った。 それまでインターネットを全く、ほんとに全くしたことがなかった私は、それまで世界の裏側にいた家族や友達が、突然すぐ近くに来て喋りだしたみたいな感覚に、すごく興奮した。 そしてある日、ふと思いついた。 メールも、そして電話もろくにしなかった、そのはじめの3年の間にあったこと。 それをエッセイみたいにして、家族に送ったらどうだろう? あんまり口数の多い方じゃないわたしに、いつもはらはらして来た家族に、 これで少しは罪滅ぼしができるんじゃないかな… そんな気持ちではじめた”エッセイ・メール”は、筆無精のわたしにしては信じられないくらい続き、またそれが楽しみにもなって、毎日のようにメールを送るようになった。家族からの反応は思った以上で、彼らはそれを、雑誌の連載小説のように、喜んで読んでくれていた。 そのエッセイが終わったとき、家族はその山のようなメールを一つにまとめ、そしてプリントアウトして送って来てくれた。もし間違いでなければ、それは原稿用紙になおすと100枚近くにもなったと思う。 その後、家族の勧めもあって、その原稿をコンクールに送ってみたりした事もあった。 海外に暮らす、自分の生活の記録が、日本にいる人たちに興味をもってもらえるかも、そしてそれが何かのチャンスにつながるかも… そんな気持ちがあったからだ。 でもそんな事は、すぐにやめてしまった。 今どき海外に住んでる人なんて、ごまんといる。 それに、まだどこにもたどり着いていない自分が、過去の事ばかり話し続けるなんて、つまらない。 前をみるほうがずっといい… そしてその原稿は本棚にしまわれたまま、今に至る。 わたしはやはり、どこにもたどり着かず、歩き続けている。 それなのに、どうして今、もう一度、あの話を書こうとしているのか。 それはたぶん、 今なら、過去を振り返るんじゃなく、前に進むために、 そういう気持ちでこの話が書ける、 と思ったからだ。 あの時のたくさんの気持ち、輝きを、 わたしは自分のために、書いていこうと思う。 #
by sidoremido
| 2009-07-09 03:07
| はじめに
2009年 07月 08日
朝の6時半。
道はもう明るくなり始めている。 眠い目をこすりつつ、カートをごろごろと引きずりながら、ランブラス通りへとむかう。 家からランブラスまでは、ひたすら真っすぐ。 歩くうちに、目はだんだんと覚めてゆく。 こんな都会に住んでても、朝の空気はおいしい。 通りにつくと、そこにはもう何人もの自称”芸術家”たちがいた。 ”やあ、リナが来たぞ!” 声をかけて来たのはカルロス。挨拶代わりに、ジプシーキングスの”バンボレオ”を踊りあう。よくわからないけど、これがいつものやり方なのだ。 ”ほら、そこのファローラ、あいてるぞ、急げ!” 教えてくれるのはホセ。 早速小走りにファローラの下に向かい、わたしは無事に今日の場所を手に入れた。 ファローラ。 それはスペイン語で街灯を意味する。 ある理由から、私がランブラスで働く時は、ファローラの下にいなければいけなかった。 いつもいつも、あいてるファローラを探していた事から、彼らの中にはわたしを、 『ファローラの女』なんて呼ぶ人もいた。 この言葉は、ほんとは娼婦の事を意味する。なぜなら、彼女たちは街灯の下で客を待つからだ。 でも、わたしはこのあだ名を結構気に入っていた。 ファローラの女。 そう、約一年半にわたって毎週末、わたしは街灯の下で、人を見て、自分をみて、一日を過ごしたのだった。 #
by sidoremido
| 2009-07-08 06:53
| 1. ファローラの女
2009年 07月 08日
”あのう、隣に組み立ててもいいですか?”
話しかけられたおじさんは、ちょっとびっくりしたように私を見たが、すぐに、 ”ああ、もちろん。美人さんは大歓迎だ!” と笑った。 慣れない手で、初めて『店』を組み立てる。 といってもそれは、長さ1メートル半くらいの、土台のついた棒2本をたてて、 その間を幾つかのひもでつなげるようにする、という感じで、 洗濯物干場を思い出してもらえたら、なんとなくわかるかもしれない。 周りの人たちが、ぽかんとして自分を見てるのがわかる。 よけいドキドキして、やけに手が震えた。 次にそのひもに、洗濯バサミでポストカードを吊るしていく。 自分で作ったクリスマスのカードたちだ。 冬なのに汗がでる。 もしかして自分は、とんでもなく恥ずかしい、見当違いな事をしてるのかも…と思う気持ちを押さえつつ、全部が組み立て終わる頃には、30分も経っていた。 ほう、っと一息つくと、どんな感じになったか、ちょっと遠くから眺めてみる。 昨日の夜、家でリハーサルのつもりで組み立てた時は、あんなに大きく見えたのが、通りの中では、ちょこん、と申し訳なさそうに見えた。 そこに、たくさんのクリスマスカードが、洗濯物のようにはたはたと揺れている。 なにげなく、隣のおじさんを見ると、にっこり笑ってOKサインを出してくれた。 天気は良好。 こうしてわたしのランブラスの『店』は、 無事にスタートしたのだった。 …と、思っていた。 #
by sidoremido
| 2009-07-08 06:49
| 2. はじまり
2009年 07月 08日
ぴゅうっ。
洗濯バサミでとめられたポストカードたちが、わさわさとはためき、そして一斉に空を舞った。 これが開店してから15分も経たないうちに受けた、最初の洗礼だった。 何枚ものカードが、右に左に、そして車道にまで飛んでいく。 それを必死に追いかける私。 ようやっと全部拾い終えたと思った瞬間、 ばたーん! 今度は立ててあった土台付きの木の棒が、あっけなく、そしてすごい勢いで倒れた。 恥ずかしい。 突然やって来て、大掛かりなものを組み立てたと思ったら、もうめちゃくちゃ。 周りの人も、気の毒そうな顔をして、こっちを見ている。 道を歩いてる時はただのそよ風でしかないものが、 こんな脅威になるなんて… 見回してみると、なるほど、ベテランと思われる人たちの”店”の足下には重しや、強力なガムテープがとめてあった。 と、そのとき。 ”ねえちゃん、これ使いなよ。” 隣のおじさんがガムテープを差し出して来た。 ”あ、ありがとう…” そのうちに、他の人たちも、重しの方がいい、とか、俺のれんがを使え、とか、声をかけてくれた。わたしを仲間にいれてくれたのだ。 なんだか希望が湧いて来た。 その後、改良を加えながら、というかごまかしごまかし、形を立て直すと、さらに足りないものを買い足したりして、ようやっとお客さんを待つ余裕ができたのは、夕方に入ってからだった。 まさか一日を店の組み立てで終えるなんて、さすがに思ってもみなかった。 走りまくって、頭を使いまくって、もうくたくた。 そしてお日様は、だんだんと沈み始めた。 残念だけど、今日はもう帰るか…そう思ったとき。 一人の女の子が、店の前にしゃがみ込んで、真剣にカードを見ている。 ものすごく長い時間をかけて、色や絵を見比べた後、おもむろに3枚を手に取って、 ”これください。” と言って来た。 そのときの、わたしが感じたすごく不思議な気持ちは、今でも忘れる事ができない。 自分の作ったポストカードを、こんなに真剣になやんで買ってくれた。 そしてそれを、彼女は友達や、家族に送るのに使ってくれるんだろう。 信じられない…! 初めてのお客さんから、はじめてのお金を受け取るわたしを横から眺めながら、となりのおじさんは、よかったな、とでも言うように、こちらに向かってにやりとしてみせたのだった。 #
by sidoremido
| 2009-07-08 06:47
| 3. 洗礼
2009年 07月 08日
バルセロナに暮らし始めて1年目の秋。
ある日、ランブラス通りをぶらぶらと散歩していた時のことだった。 知らない人に少し説明すると、このランブラスはバルセロナの海とカタルーニャ広場をつなぐ、とても長い通りで、普通に歩くと2、30分はかかる。道の途中には、小鳥やウサギを売る店、花屋などが並ぶほか、たくさんの大道芸人たちや、更には自分の描いた絵や似顔絵を売る人々がいる。 ガイドブックを買えば、必ずこの通りの写真がでてくる、そんな観光名所なのだ。 話を戻して、その日、この道を歩きながら、いつもはめったに行かない、海の方まで足をのばしてみてみようと思いついた。 しばらく進むと、道の両側にたくさんの人たちが見えて来た。 それぞれが、三脚や木の板などを使いながら、絵を立て掛け、通行人達はその絵を買ったり、その場で似顔絵を描いてもらったりしていた。 絵の種類もさまざまで、お土産物用にフラメンコとか闘牛の絵もあれば、ピカソの真似もあったり、そして自分のオリジナルを売る人もいる。 ちょっといいなあ、と思ったのがあってみてると、画家のおじさんが話しかけて来た。商売っけもなさそうで、優しそうな人だった。 ”おじさんは、もう何年もここで絵を売ってるの?” ”そうだね、もう5年になるかな。” ”毎日来てるの?” ”いや、週の半分はアトリエで絵を準備して、残りの半分はここに来て絵を売ってるんだ。” ”ふーん、いい生活だなあ。” ”ふふ…まあな。” ”誰かに許可もらってるの?” ”いいや、ここは誰が来てもいいんだよ。” わたしはびっくりした。 許可もいらず、好きな日の好きな時に来て、誰かが気に入ったら、お金がもらえる。 …なんておいしい話なんだろう!!! もしかしたら、わたしでも出来るんじゃない? 失敗しても失うものもない。 一日中外にいられるなんて、気持ちいい。 学校のない週末だけ来ても大丈夫。 そして、そしてうまく行ったら、生活費が稼げるかも! その時から、わたしの”ランブラス計画”は始まった。 Xデーは、1ヶ月後の11月中旬。 秒読み開始。果たしてまにあうだろうか!? #
by sidoremido
| 2009-07-08 06:42
| 4. きっかけ
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